東京高等裁判所 昭和31年(ネ)1592号 判決
従つて右売買が果して控訴人主張のように被控訴人浅野らの欺罔行為によるものか否かはしばらくおき、右は臨時物資需給調整法違反の売買であるといわざるを得ない。そして同法は単なる行政上の便宜のための取締法規ではなく、終戦後の異常な物資の不足状態に対処し、産業の回復および振興に関する国の基本的な政策ならびに計画の実施を確保するために制定せられた強行法規であつて、同法に基く命令に違反した者には一〇年以下の懲役又は一〇万円以下の罰金という重刑が課せられるものとされており、何人も当時同法に違反した取引は反倫理的行為であるとして怪しまなかつたものである。このことは同法に基く加工水産物配給規則が昭和二五年四月一日から廃止せられ、右廃止の事実は本件取引当時から業者間にはつとに予見せられていたとしても何らかわるところはない。故に本件売買は右法令に違反しかつ公序良俗に反するものというべく、控訴人の本件煮干いわしの給付はいわゆる不法原因給付であつてその不法原因は双方にあるといわなければならない。そして民法第七〇八条の不法原因給付に関する規定は不法行為による損害賠償請求にも適用あることもちろんであるから、(大審院昭和一九年九月三〇日判決民集二三巻五七一頁参照)たとえ被控訴人桑原が本件煮干いわしの交付を受けたことが同人らの欺罔行為によるとしても、本件煮干いわしの給付が不法原因にもとずく以上、被控訴人らは詐欺による不法行為による損害賠償義務はなく、控訴人の第一次請求はこの点においてすでに失当として棄却するほかはない。
(大江 猪俣 沖野)